InAequabilitas

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ゲルセミウム・エレガンス総まとめ―後半

←前半はこちら

さて、毒性である。しばし嫌がらせのように化合物の名称が続くので御注意。
根からはコウミン(Koumine)、コウミニン(Kouminine)、ゲルセミン(Gelsemine=Gelsemin, C20H22N2O2)、コウミニシン(Kouminicine)、コウミニジン(Kouminidine)、センペルヴィリン(Sempervirine)、コウミシン(Koumicine)、コウミジン(Koumidine)が、また茎からはコウミン、センペルヴィリン、フマンテミン(Humantenmine)、フマンテニン(Humantenine)、フマンテジン(Humantendine)、フマンテニリン(Humantenrine)、アクアミジン(Akuammidin)、16-Epivocarpine、19-hydroxy-dihydrogelsevirine、Dihydrokoumine、19(R)-Kouminol、19(S)-Kouminolが、そして全草からフマンテニン、フマンテニリン、N-desmethoxyrankinidine、11-hydroxyrankinidine、11-hydroxyhumantenine、11-methoxyhumantenine、N-methoxytaberpsychine、N-methoxyanhydrovobasindiol、Gelsamydine、Gelselegine、11-methoxy-19(R)-hydroxygelselegine、19-hydroxydihydrokoumine、20-hydroxydihydrorankinidine、N-Desmethoxyhumantenine、15-hydroxyhumantenine、Gelsemoxonine、Gelsemamide、11-methoxygelsemamide、19(R)-hydroxydihydrogelsevirine、19(S)-hydroxydihydrogelsevirine、19(R)-acetyldihydrogelsevirine、19(R)-hydroxydihydrogelsemine、19(Z)-akuammidine、ゲルセミシン(Gelsemicine, C20H26N2O4)、ゲルセヴェリン(Gelseverine)、ゲルセジン(Gelsedine)などのアルカロイドが抽出されている。毒性が特に強いのは根、葉だが、極め付けは若葉である。福建産のものにはゲルセミン、コウミン、コウミニジン、コウミシン、コウミジンが、広東産のものにはコウミン、コウミニジン、コウミジン、コウミシンが含まれるという報告がある。
一般的には全草10g(葉にして2-12枚)、根2-8g、若葉10-38枚、浸剤(どう翻訳すればいいか思いつかなかった)3.5mlを内服すると重い中毒を引き起こす。根3gや若葉7枚、それどころか茎と葉の搾り汁で30滴ほどで死に至った事例もある。皮膚に塗布するだけの場合も、大量なら中毒を引き起こすことがある。経皮吸収もされるということか。花粉などにも毒を持つので、蜂蜜に含まれているだけでも死に至る重篤な中毒に繋がる可能性もある(因みに蜂は冶葛の毒で中毒を起こすという)。
「葉3枚とコップ1杯の水で死ぬ」と民間では言われるそうだが、水よりもアルコールと一緒に用いるとより毒性が強い。ジャスミンティーの中毒事件からも考えられるように、水にもアルコールにも可溶なのだろう。アルコールの方が更に易溶だという事だろうか。純粋成分である場合のゲルセミシンの致死量は0.05mg/kg、コウミニシンの致死量は0.8mg/kg(ウサギMLD)。全体としては神経毒に分類される。皮下注射と経口摂取では毒性発現に大きな差はないようだ。矢毒とした場合、生体内で長期にわたって効力を持続する。消化管から最もよく吸収される。ニコチンやシクトクシン(ドクゼリの有毒成分)に性質が似ており、主に呼吸中枢を抑制する。
ゲルセミシンとゲルセミン:
gelsemicinegelsemin
(ゲルセミウム・アルカロイドの構造式:)
Gelsemium Alkaloid


冶葛の毒は全て中枢神経に対して作用する。迷走神経、循環器への作用や神経節の麻痺はあまり認められない。呼吸中枢に対する直接作用の為、死因は呼吸麻痺がほとんどである。これらの特徴の為、実験動物に致死量を2回注射して呼吸が停止しているにも関わらず心臓が拍動し続けている事もある。だが別の文献を参照すると、心筋を直接刺激し、心拍異常を引き起こすとも書いてある。抗アセチルコリン作用を持つためである。
植物体のどの部分を摂取したかによって症状の出る速度が違ってくる。根本体や乾燥根では0.5-2時間経たないと症状が現れない事もあるが、新鮮な若葉又は根の煎汁を摂取した場合は速効である(1-8時間以内に死亡)。また、乾燥葉の粉末でも症状は速く出るらしい。大抵は摂取後1時間ほどで症状が現れる。しかし、<スイカズラ湯>の中毒事故(前半を参照)では、摂取後わずか10分で悪心・嘔吐などの症状が、また約30分で腹痛・痙攣・眩暈・呼吸困難等の症状が現れたという。
延髄の呼吸中枢を麻痺させる事は判っているが、他に脳と脊髄運動ニューロンの働きを抑制するようだという事が推測されている。その為、眼瞼下垂、頭部下垂、全身筋肉の弱化などが現れる。主な中毒症状は呼吸困難→呼吸麻痺だが、他に口腔・咽頭の灼熱感、流涎、悪心、嘔吐、腹脹、腹痛、便秘、下痢、眩暈、筋弛緩→言語含糊・発音困難・運動失調・無力・眼瞼下垂、嚥下困難、呼吸筋周囲の神経麻痺、複視、視力減退(失明に至ることも)、瞳孔散大、呼吸の浅深が不規則になる、嗜睡、全身の痙攣、後弓反張、ショック、四肢の冷却・麻痺、顔面蒼白、血圧降下、虚脱、昏迷がある。また、はじめ心拍緩慢であるがのちに速くなる。大抵は不規則な拍動である。呼吸の状態の推移は、速いペースでの深めの呼吸→遅いペースでの浅めの呼吸、或いは不規則な呼吸→呼吸困難・呼吸麻痺。不規則な呼吸によって副次的にアシドーシスを起こす事もある。

病理解剖の所見を見てみよう。まず全身に青紫色の変色がみられる。そして食道及び胃腸粘膜の充血・水腫、局所的な溢血点(胸筋・胸膜・心外膜に多い)、肺水腫が観察される。毒性に鑑みれば理解しやすいだろう。

西洋医療の方面では特効的拮抗薬は報告されておらず、胃洗浄、催吐、瀉下、輸液及び対症療法が専ら中毒時に行われるようだ。だが、漢方医の方面では長らく「鉤吻」として付き合ってきたからだろうか、中毒時の処置の部分が詳しい。
直ちに催吐、胃洗浄を行うところは共通している。胃洗浄には過マンガン酸カリウム溶液(1:5000)もしくは濃い茶を用いる。その後胃粘膜の保護の為、鶏卵白を内服する。同時に温かい食塩水で浣腸を行い、毒物の排泄を促進する為、ブドウ糖溶液を静脈に点滴する。硫酸ナトリウムを経口内服し、胃洗浄を促進させる。
また、毒物を吸着するのに活性炭を用いてもよい。その場合、飲み込んだ毒物の量がわかっていればその10倍の活性炭を数回にわけて与える。活性炭1gを水など1kgに混ぜて経口摂取させるか、直接胃に灌入する(毎日1-2回)。活性炭を用いるときは、患者が嘔吐時に活性炭を吸入しないよう注意すること。
解毒: 1.新鮮な羊(或いは鴨、ガチョウ)の血液300ml(小児100ml)で毎日2度浣腸する。2.黒大豆200gを煎じて服用。 3.アマクサ(カンゾウ)、コガネヤナギ、オウレン、キハダ(オウバク)各9gを煎じ、内服。これらには解毒作用がある。
民間療法では次の幾つかの方法が用いられる。「鴨毛蕉花生油」(何だこれ?)を用いて催吐を行い、次に落花生油を1杯飲ませる。鴨もしくはガチョウの血を大きめの碗1杯ほど灌腸する。鴨の卵3つ分の卵白と落花生油を混ぜたものを灌腸する。バビショウ(タイワンアカマツ)の葉を除いた枝を8本、ニラ1本、ムカデ20-40gを混ぜてすりつぶし、半碗ほどの湯にそれを入れて、濾過したものを飲ませる。ヨウサイ(クウシンサイ)の根と茎(葉を除いたもの)約500gの絞り汁を飲ませる。スイカズラの茎(葉も含む)をすり潰したものとカソナード(赤砂糖)を混ぜて飲ませる、などなど。
対症療法: 腹痛を訴える場合アトロピン0.5mgを皮下注射し、呼吸困難の場合は安息香酸ナトリウムカフェイン、ロベリン、ニケタミドを用い、併せて二酸化炭素を含む酸素を吸入させ、必要時には心肺蘇生を行う。
アトロピン中毒様症状、つまり瞳孔散大・視力減退・口腔内の渇き・動悸・筋無力・悪心・嘔吐・下痢を起こしているときは臭化ネオスチグミンなどを使用してコリンエステラーゼの値を抑え、アセチルコリンの分解を遅らせる。いくつかの症状の改善が期待されよう。
成人では臭化ネオスチグミン1mgを5%のブドウ糖溶液20mlで稀釈して静脈注射する。症状の改善が見られればのちは筋肉注射に変更する。6-8時間ごとに1回ずつ、毎回0.5-1mgを症状が消失するまで与える。
痙攣を起こしている場合は、ジアゼパム・アモバルビタールナトリウム・抱水クロラールを用いる。血圧下降がみられれば血圧を上昇させる薬剤、たとえばドーパミンなどを点滴静注する。心不全にはジゴキシン類を応用する。
鍼灸治療についても何かあったが、僕自身がよくわかっていないので省略。

手元にある限りの文献と読める限りのウェブの情報を総動員して、未だ謎の多いとされる最猛毒植物、冶葛=ゲルセミウム・エレガンスについてをまとめてみた。更に付け加えるところがあれば大歓迎である。コメントなどに遠慮なく書き込んで頂きたい。できたら出典を明記して頂けるとより幸いだ。

香港にてゲルセミウム・エレガンスを(あまり真面目でもなく)探索してみた結果はここ

ゲルセミウム・エレガンスの名前にまつわる小話はここ

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Comment

2011.04.07 Thu 04:13  

以下にゲルセルミンの毒性について記述されていますよ。
宜しかったら、御覧下さい。
The Alkaloids: Chemistry and pharmacology
http://books.google.co.jp/books?id=P6_rkf7DcZwC&pg=PA135&lpg=PA135&dq=gelsemine+LD50&source=bl&ots=Wx8Tkdthyn&sig=UHmb9hc2-gaDRnxrysAiSuYQFb0&hl=ja&ei=j6OcTaaFJdO3cbLU-NQF&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CBsQ6AEwAA#

中国語ですが、以下に詳しい記述があります。しかし、断腸草とは苦しそうな名前ですよね。
断肠草
http://baike.baidu.com/view/14456.html

2011.04.07 Thu 13:35  

おおお、ありがとうございます!

そういえば以前中国の山奥(雲南省)に行ったのですが、そこの高山植物研究所の所長さんやそこらへんにいる住民数人に「これ見たことありません?ここらに生えてないですか?」と本の冶葛のページを開きながら聞いてみたことがあります。そして全員「絶対近くで見たことあるよ!なんかどこだったか思い出せないけど」って答えてくれるんですねこれが(笑
なのに植物自体とは遭遇できませんでしたが!
  • #MF8IyTP2
  • 北落師門
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2011.04.09 Sat 01:01  

>そういえば以前中国の山奥(雲南省)に行ったのですが、そこの高山>植物研究所の所長さんやそこらへんにいる住民数人に「これ見たこと>ありません?ここらに生えてないですか?」と本の冶葛のページを開>きながら聞いてみたことがあります
雲南省に行かれたのですか、羨ましいです。自然が豊かで様々な動植物がいるそうですね。私は中国には行った事が有りませんが、一度は西域とかチワン族自治区などに行ってみたいと何十年も憧れ続けています。

ところで、中国ではゲルセミウム・エレガンスをスイカズラと間違えて花の蜜を吸い、中毒をする事故が多いそうです。
ゲルセミウム・エレガンスとスイカズラを間違えるってのも突っ込みたくなりますが、逆にスイカズラが自生するような場所にゲルセミウム・エレガンスも自生しているって事でしょうね。
つまり、ゲルセミウム・エレガンスはチワン族自治区など、沿岸部に近く、暖かく穏やかで里山のように人家に近い畑の近くなど、空けた場所に自生しているように思えます。
極相の照葉樹林や極度に人手が入った場所では自生し難いでしょうね。
雑木林など、人家近くの日当たりの良い藪に茂っているのでしょうね。
ちなみにスイカズラの中国語表記は金銀花です。

私は川崎市に在住していますが、昔はそこら中にスイカズラが咲いていました。
今は全く見かけなくなりました。代わりに日陰を好むヘクソカズラが繁茂するようになりました。これも都市化による植生の変化なのでしょうね。
最もヘクソカズラの繁茂は、種子を野鳥が散布するのが主な要因かも知れませんが...

2011.04.09 Sat 12:01  

雲南省の植物は実に多様ですよ。とくに僕が行ったところでは、狭い範囲内でも標高の変化が顕著で、そのため高山植物から都会に生える草まで何でも見られました。一番印象的だったのはイラクサの群生だったんですが。
冶葛と忍冬の花を間違えるっていうのはなんだか想像付きませんけれど(笑)、でも葉の形やつる性であることが似ていたりして判らなくもない気がします。僕自身、花でなくて葉を頼りに冶葛を探していたと時に一瞬忍冬を冶葛と誤認したので...。
因みに忍冬は中国では薬として非常に一般的で、スーパーでも「金銀花露」(スイカズラドリンク?)を売っています。子供にもなじみ深いので、逆にそういう中毒事故が起こりやすくなるのかも知れませんね。
植生の変化といえば、昔は都会にもドクウツギがたくさんあったとか...僕はドクウツギの実物は一度も見たことがないので昔がとてつもなく羨ましいです(笑)。
  • #MF8IyTP2
  • 北落師門
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2011.04.10 Sun 06:32  

>雲南省の植物は実に多様ですよ。とくに僕が行ったところでは、狭い>範囲内でも標高の変化が顕著で、そのため高山植物から都会に生>える草まで何でも見られました。一番印象的だったのはイラクサの群>生だったんですが。
雲南省は面白そうですね。珍しい動物も多いですし、知人の学者がキンシコウの研究に行ってますが、良いところらしいですね。

>昔は都会にもドクウツギがたくさんあったとか...
本当ですか。河川敷とかに生えていたんですかね。
その代わり、近年は大気汚染に強い夾竹桃が街路樹や公園に、沢山植えていますよね。川崎市南部にはアチコチに植えられています。あんなに強い毒を持つ植物が、都会に多く植えられているのは、知っている人には驚きものですよね。
中毒事故が起きなければ良いのですが...







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