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ゲルセミウム・エレガンス総まとめ―前半

[最終更新: 11/19 2011]

「ゲルセミウム・エレガンスほど、ロマンと想像力をかきたて、心を熱くさせる毒草を私は知らない」。
植松黎氏著「毒草を食べてみた」の最後の項はこう始まる。ゲルセミウム・エレガンス(以下、冶葛)は数ある有毒植物の中でも最も強い毒を持っているとされる、マチン科の植物である。

マチン科ゲルセミウム属、学名Gelsemium elegans、英名Chinese Gelsemium(またはPoison Hemlock...ってドクニンジンかよ? 信憑性は微妙)。フジウツギ科とする事もあり、またAPGの分類体系ではマチン科でなくゲルセミウム科とされる。
蔓性の常緑低木で、高6-12m程になる。葉は革質で対生し、楕円形~狭卵状披針形、全縁で先端が尖り、光沢を持ち滑らかで、厚みがある。葉脈は5-7対ずつある。葉の大きさは長さ5-12cm、幅2-6cm。葉柄の長さは6-12mm。茎は円柱形で直径0.5-5cm、樹皮は灰黄色から黄褐色で縦に溝が入る。若い茎は比較的滑らかで、黄緑色或いは黄色をしており、細い縦縞や楕円形の突起がある。また茎は硬くて折りづらく、断面も滑らかにはならない。花期は2月頃で、花径約2cm、筒形、芳香ある黄色い五弁花で、花序は集散花序である。花弁の内側に赤い斑点が入っている。花冠の大きさは1.2-1.9cm、裂片は卵形で先が尖るか或いは丸く、5-9mmの大きさになる。萼片も5枚あり、長さ4mmほどで卵状披針形(三角形~楔形)をしており、繊毛が生えている。花柄の長さは3-8mm。雄蕊は花冠から突出し、花糸の長さは3.5-4mm、葯は狭卵形で1.5-2mm。子房も卵形で大きさは10-14mm長、6-8mm幅で、毛はない。花柱の長さは0.8-1.2cmで、柱頭には毛が生えている。果実は楕円形の朔果、2筋の縦線があり、熟すとこれに沿って裂ける。1つの果実に20-40個の種子が入っており、種子は膜質で腎形か楕円形、毛が生えており、不規則な形の翼を持つ。大きさは直径5.5mmほど。根は黄色い(因みに甘いらしい)。「医用本草綱目」によれば、茎を折ると青煙が立つという(本当か?)。一年生という文献と多年生だという文献がどちらも存在する。
Gelsemium elegans photo2Gelsemium elegans photo2(クリックで拡大)
G.elegans1G.elegans2
画像→花と葉 花近撮  実と葉 熟した実

日本には産しない。中国、インド、ベトナム、タイ北部、インドネシア、マレーシア、ラオス、ミャンマー北部に自生する。日当たりの良い山の斜面、道端の草むら、低木の茂み、雑木林に生える。本草綱目によると陝西鉤吻の自生地は(中国の)南越山、寒石山、益州。「酉陽雑俎」には邕州と容州の間(広西省付近)に分布するとある。ウィキペディア(英語版)では、中国の福建、広東、広西、貴州、海南、湖南、江西、台湾、雲南、浙江の各省の名が挙げられている。中国南部から南東部だ。長江の流域に多く見られるという。海抜200-2000m(特に650-1700m)のところによく生える。また、香港では「香港四大毒草」のうちに数えられている(残りはマチン、ストロファンツス、チョウセンアサガオ)。
植えている薬用植物園も日本国内にはほとんど無いらしいが、ひとつ見つけた。
日本新薬株式会社が持っている、山科植物資料館。京都市山科区にある。一般公開はされていないようなので、電話とかで問い合わせるしかないようだ。

別名はそれこそ掃いて捨てる程存在する。冶葛(ヤカツ)、鉤吻、断腸草、胡[葫]曼藤[草]、野葛、毒根、黄藤、火把花[草]、大茶薬[藤]、除辛、固活、吻莽、爛腸草、朝陽草、虎狼草、黄花苦晩藤、黄猛菜、大炮草、苦晩公、荷班草、発冷藤、藤黄、大鶏苦蔓、羊帯帰、金勾吻、苦吻、毒極大茶葉、山砒霜、豬人參、麻醉籐、水莽草、亡藤、土農薬、ランゴン、シュア・ノーツァ。除辛は細かく言えば陝西鉤吻の別名である。「断腸草」や「爛腸草」というのは、中毒を起こした人の腸が黒く爛れ、ひどい腹痛に苦しみながら死んでいくことから名付けられたという。
因みに、中国語では「鉤吻」は冶葛とツタウルシの両方を表す。しかもツタウルシも「野葛」と呼ばれる事がある。冶葛と野葛は発音が同じ(ye3 ge2)だ。余り使われない「冶」より「野」のほうが受けたのだろうか。僕の想像に過ぎないが。

ゲルセミウム属は3種あり、冶葛、カロライナジャスミン(G. sempervirens)、ランキンジャスミン(G. rankinii)がそれだ。カロライナジャスミンはそこら辺の花屋でも売っているし、それどころか線路脇のフェンスに平然と絡み付いている事も多いので目にする事は多いだろう。冶葛には敵わないが、アメリカでは猛毒指定されているほど毒性が強い。何を思ったのかジャスミンティー(もどき)にしてしまい中毒事故を起こした人がいるそうだ。この3種は常緑蔓性木本で葉が対生し、花は筒状、そして猛毒という共通点を持つ。
冶葛自体の中毒事故も稀ではない。蔓性であるため、茶の木などに絡み付いていたりすると茶摘み期の茶の葉と冶葛の若葉が良く似ている為に誤って一緒に摘まれたりすることもあるのだとか。しかし死ななかった者のなかには逆に治す手のなかった奇病が治った者がいるという言い伝えがある(科学的根拠はなし)。本当だとしたらまさに「毒を以て毒を制す」だということになる。また、少数民族の間では冶葛はアヘンの毒消しになるとも言い伝えられているという。
中国の湘北地区に伝わる民謡の一節に「青叶子,红棍子,吃了困盒子」というのがある。「青い葉、赤い茎、食べたら箱に入っちゃう」とでも訳すべきか。「箱に入る」とは「棺桶に入る」ことである。
スイカズラと間違われることもよくあるようだ。子供がそれと間違えて蜜を吸ったり、また学生が「スイカズラ湯」を作って実際に一人が死亡する事故や労働者が「涼茶」にしたりする事故(これも一人が死亡)も起こっている。

冶葛は漢方にも使われる。奥井真司氏著の「毒草大百科」には「最近の薬草市場ではめったに見ることができなくなり、幻の植物となっている」と書かれているが、淘宝網で鉤吻と入れても普通に出てくる(検索結果)。本場の薬草市場がどうなのかはよく判らないが。根を水洗いして乾燥させて用いる。根は周年採ることが出来るが、本草綱目には正月と書いてある。効用は喘息、リューマチ、解熱、性病、鎮痛(頭痛、神経痛、打ち身、関節炎その他)、水腫など。天然痘にも使われるようだ。毒性が強過ぎる為、塗布など必ず外用である。数多の漢方書には「内服は厳禁」と書いてある。外用であっても、塗布したものは30分で取り除かなければならないとも(水泡ができてしまうため)。また、農村部では殺虫剤(ウジやボウフラに対して効く)として使われていたこともあるそうだ。
本草綱目(明、李時珍)には「気味―辛、温、有大毒」と記されている。「気味」は現代中国語ではにおいのことだが、ここでは性質の事を表している。「辛」は味で、文字のまま。口に入れるとピリピリするのだろう(→中毒症状/口腔・咽頭の灼熱感)。(※知人の中国人によると、辛は「辛い味」というわけではないらしい。なんというか、ワサビのような独特の匂いというか後味を持っているということのようだ。)「温」は薬物の四気のひとつで、四性ともいう。「熱」とともに寒性の病気に用いる。たとえば西瓜は「涼」なのだが、夏に西瓜を食べ冬に食べないのは旬だけの問題ではなく、冬に食べると体が冷えてしまうからだ。「涼」は「寒」と共に熱性の病気に効果が出る。それ以外に「平」があるが、これは作用が穏和な薬物である。最後の「有大毒」は、もう説明するまでもないだろう。
因みに、「広西中薬誌」には「味苦、性寒、有大毒」と性質としては正反対のことが書かれているらしい。清代の沈濤による記述(瑟榭丛谈)における冶葛についての記述は「人马误食之,立毙 (人間や馬が誤ってこれを口にすれば即座に死んでしまう)」というもの。「立(=即座に)」というのは毒の速効性を示しているのだろうか。
ところが豚や羊に対しては、毒は全くその効果を示さないどころか、冶葛を食した場合逆に毛並みに艶が出たり脂肪が増えて肥えたりするのだという。本草綱目にも「"断腸草"人誤食其葉者致死、而羊食其則大肥(冶葛の葉を食べた場合人間は死ぬが、羊はよく肥える)」とある。しかし今のところ、何故そうなるのかはまだ判っていない。

また、冶葛は生薬として正倉院に納められている。陶器の壷に入れられており、番号は最後の60番。納められた当時(756年6月21日)は14kg(32斤)あったが、現在は390gしか残されていないそう。そして用途は不明だという事だ…。
1996年、冶葛がゲルセミウム・エレガンスである事を科学的に証明する試みが持ち出された。調査を依頼されたのは千葉大学薬学部の相見則郎教授。渡されたサンプルは僅か2.8gだったという。だが相見氏はそれでも、そのサンプルから純粋アルカロイド、ゲルセミン、コウミン、ゲルセヴェリン、センペルビリンを抽出し、冶葛=ゲルセミウム・エレガンスである事を証明したのだ。その上、1200年以上経過したにも関わらず、冶葛の毒性が全く劣っていない事も明らかにされた。

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