InAequabilitas

 moneo in reticentia - audi.

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内向人肉嗜食

カニバリズム(人肉嗜食)はたとえばレクター博士のお陰(?)で随分と有名になったが、そのほとんど全てが他人に対するものであるため、なんだか必ず犯罪学的な関心を帯びてくる。ところでじゃあ自分を食うというのはどうだろうか。自傷と同じく罰するわけにもいかんのである。僕としては別にいいんじゃないかとか思うんだが(待て)。
食人行為の動機には三種類ある。一つ目は極度の飢餓(ナント・パラードドナー隊など)、そして二つ目が「食ってみたかった」的な理由によるもの。佐川一政アルミン・マイヴェスなどが代表格か。そして最後に、変わったところとしては経済目的での食人だろう。ヨアヒム・クロルカール・デンケ以外には知らないが、デンケは肉不足から生じるインフレを食い止めようと浮浪者を殺して缶詰にしていたそうである(私が供給を増やせば肉の価格は下がる、そして町の人々も喜ぶ!)。しかもやたらと几帳面で、どんな人間の肉が美味いか、塩加減はどれくらいかなど細かくメモを取っていたというからもはや感動的。それどころか「仕入帳」まで付けていたため(氏名・年齢・性別・人種・体重・死亡年月日・仕入れにかかった費用を記入)、ほとんど調べずとも犯行の全貌が分かったんだとか。クロルも食費を浮かすために人肉を食べていたらしい。因みにウィキペディア日本語版に載っている食人者の一覧はここ。あと殺人博物館に載っているものはこれ

古代ギリシアの神話にエリュシクトンという王がいる。彼は女神デメテルの怒りを買って(彼女の聖林に生えていた木を伐ったため)飢餓に取り憑かれ、国にある全ての食糧を食べ尽くしても飢えが収まらず、結局娘を連れ斧を持って旅に出る。金まで底を尽きてしまったため彼は娘を売るが、彼女はポセイドンに祈って変身能力を手に入れる。その後売られるたびにカモメに姿を変えて父の元に戻ってくるというのだが、最終的に彼女と同じような変身能力を持つ若い男に売られ、娘は彼の元に留まってしまう。娘を幾ら待っても戻ってこない王は極度の飢えに悩まされ、そしてふと自分のよく肥えた手に気付き、思わず食ってしまう。食っても食っても止められず、最後には唇だけが残り、その唇も自身を呑み込んでエリュシクトンは完全に消滅してしまった。(ついでに言うと、そこでやっと女神の怒りは解け、彼女は王の娘とその夫に幸福な暮らしをさせたという。)
ギリシア神話にはなかなかブラックユーモア的な雰囲気の話がよくあるが、これはその中でも傑出して興味深い話ではないか。自らを貪って消滅してしまう王!それも神の下した罰で。
それから僕のお気に入りの詩のひとつにフォルヌレの詩集「詩でも散文でもない水蒸気(Vapeurs, ni vers, ni prose)」に収められた「恥を知る貧乏人(Un pauvre honteux)」というのがある。これも内に向かう食人行為を見事に表現している。文体の異常な軽さがまた不気味である。原文は追記に。因みに原文は声に出して読んでみると結構楽しい(笑)。

穴のあいたポケットから
引っぱり出して、
目の前に置いた。
つくづく眺めて、
「かわいそうに!」と言った。

湿った口から
息を吹きかけた。
ふっと心をとらえた
おそろしい考えに
ぞっとした。

溶けて流れた
氷の涙で
濡らしてやった。
大市場よりももっと
隙間だらけの部屋だった。

ごしごし擦ってやったが、
一向に温まらず、
ほとんど感覚も失せていた。
刺すような寒さに
かじかんでいたからだ。

ある思いつきを吟味するように
宙にかざして
吟味した。
それから針金で
寸法を測った。

皺の寄った唇で
触れてみた。―
物狂おしく
こう叫んだ、
「さようなら、接吻しておくれ!」

唇に押しつけた。
それから捩子のゆるんだ
重苦しい音を出す
腹の時計の上で
組み合わせた。

殺すことに意を決めた、
片一方の手で
そっと触れた。
―そうだ、たとえ一口でも
腹の足しにはなるぞ。

ぽきりと曲げた、
へし折った、
目の前に置いて、
ちょん切った。
水で洗って、
運んでいって、
こんがり焼いて、
食ってしまった。

―まだ子供の頃、彼はよく聞かされていたのだ、
「ひもじくなったら、片方の手を食うがいいよ」と。

(『恥を知る貧乏人』グザヴィエ・フォルヌレ、澁澤龍彦訳)

Il l’a tirée

De sa poche percée,

L’a mise sous ses yeux :

Et l’a bien regardée

En disant: « Malheureux ! »



Il l’a soufflée

De sa bouche humectée ;

Il avait presque peur

D’une horrible pensée

Qui vint le prendre au cœur.



Il l’a mouillée

D'une larme gelée

Qui fondit par hasard ;

Sa chambre était trouée

Encor plus qu’un bazar.



Il l’a frottée,

Ne l’a pas réchauffée,

À peine il la sentait ;

Car par le froid pincée

Elle se retirait.



Il l’a pesée

Comme on pèse une idée,

En l'appuyant sur l’air.

Puis il l’a mesurée

Avec du fil de fer.



Il l’a touchée

De sa lèvre ridée.

D’un frénétique effroi

Elle s’est écriée :

« Adieu, embrasse-moi ! »



Il l’a baissée

Et après l’a croisée

Sur l’horloge du corps,

Qui rendait, mal montée,

De mats et lourds accords.



Il l’a palpée

D’une main décidée

À la faire mourir.

― Oui, c'est une bouchée

Dont on peut se nourrir.



Il l’a pliée,

Il l’a cassée,

Il l’a placée,

Il l’a coupée,

Il l’a lavée,

Il l’a portée,

Il l’a grillée,

Il l’a mangée.






Quand il n’était pas grand, on lui avait dit :

― Si tu as faim, mange une de tes mains.

("Un pauvre honteux", Xavier Forneret)

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北落師門

Author:北落師門
特徴: 研究者気質(何)、厭世家、人嫌い、典型的ブックワーム。
大量の学問だけで出来ていると思う。詭弁と皮肉で武装している。
目の悪さが半端ない。あと、電話と食事と世間話が天敵。
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