InAequabilitas

Date : 2014年07月

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ゲルセミウム・エレガンス小話—冶葛・鉤吻・断腸草

ゲルセミウム・エレガンスには数多の異名があると以前書いた。そのうちの「冶葛」と「鉤吻」、そして「断腸草」について書いてみることにする。

冶葛と鉤吻
上のリンクの記事で、正倉院に納められた「冶葛」がゲルセミウム・エレガンスであることを同定した実験のことを紹介している。これにより冶葛がゲルセミウム・エレガンスであることは間違いないことがわかったのであるが、伝統的な生薬の「鉤吻」が果たして「冶葛」と同一であったかについては疑義が存在するらしい。
ほとんどの本草書では、冶葛は鉤吻と同一の植物を起源としており、その違いは単に地上部(鉤吻)であるか根部(冶葛)であるかのみと考えられているのであるが、これらの起源植物は別であるという説が存在する。代表的な論者は陶弘景(『本草経集注』)である。
陶は「鉤吻」は北方の有毒植物であり、魏晋の間に南方から伝わった猛毒植物が「冶葛」であると考える。そのため、冶葛はもとの鉤吻と区別するために「秦鉤吻」と呼ばれることもあるのだという。
『本草経集注』には、「野葛(注: 冶葛に同じ)は是 根にして状は牡丹の如し。(中略) 鉤吻は是 別の一草で、葉は黄精に似て茎は紫、当心抽花は黄色」と記述されている。黄精とはユリ科のカギクルマバナルコユリ(日本ではナルコユリによって代用されている)のことであり、葉は平行脈であり細長い。楕円形で網状脈の葉をもつゲルセミウム・エレガンスとは全く異なっている。
それでは鉤吻とは何者なのか。
「鉤吻」とは、実は古代では毒草全般のことを指す言葉なのである。そのため、地方により様々な「鉤吻」が存在していた可能性があるのだ。たとえば『金匱要略』では、「鉤吻と芹菜相似たり」と記述されている。セリは羽状複葉を持つため、ナルコユリともゲルセミウム・エレガンスのどちらともかなり違った雰囲気を持っている。そのため、『金匱要略』で記述されている鉤吻と『本草経集注』で記述されている鉤吻はまた別の植物であると考えられよう。
現代においては、生薬で「鉤吻」といったら必ずゲルセミウム・エレガンスのことを指す。今では冶葛という呼び名は、漢方の起源国中国においてはあまり用いられず、主に「断腸草」と「大茶薬」が鉤吻の別名として広まっている。また、中国語で「鉤吻属」といったらゲルセミウム属のことだ。それほどに鉤吻=ゲルセミウム・エレガンスという図式が定着してきているのである。

参考: 鉤吻と冶葛(野葛)



断腸草という名前
鉤吻と呼ばれる植物が複数あるらしいことは上に書いた。それと同じように、ゲルセミウム・エレガンスの別名のひとつである「断腸草」も、複数の植物に与えられた呼称なのである。
中国において「断腸草」と呼ばれる植物は14もの科にわたっている。それらを以下に列挙する。

1. Gelsemium elegans (冶葛、マチン科ゲルセミウム属)
2. Illicium simonsii (シキミ科シキミ属)
3. Illicium lanceolatum (シキミ科シキミ属)
4. Aconitum kusnezoffii (キンポウゲ科トリカブト属)
5. Aconitum flavum (キンポウゲ科トリカブト属)
6. Clematis aethusifolia (キンポウゲ科クレマチス属)
7. Chelidonium majus (クサノオウ、ケシ科クサノオウ属)
8. Meconopsis chelidoniifolia (ケシ科メコノプシス属)
9. Corydalis temulifolia (ケマンソウ科キケマン属)
10. Corydalis temulifolia subsp. aegopodioides (ケマンソウ科キケマン属)
11. Corydalis sheareri (ケマンソウ科キケマン属)
12. Corydalis shimienensis (ケマンソウ科キケマン属)
13. Corydalis flexuosa subsp. omeiana (ケマンソウ科キケマン属)
14. Corydalis flexuosa subsp. pseudoheterocentra (ケマンソウ科キケマン属)
15. Corydalis taliensis (ケマンソウ科キケマン属)
16. Corydalis duclouxii (ケマンソウ科キケマン属)
17. Corydalis pingwuensis (ケマンソウ科キケマン属)
18. Corydalis longicalcarata (ケマンソウ科キケマン属)
19. Corydalis longicalcarata var. non-saccata (ケマンソウ科キケマン属)
20. Corydalis davidii (ケマンソウ科キケマン属)
21. Corydalis feddeana (ケマンソウ科キケマン属)
22. Corydalis linstowiana (ケマンソウ科キケマン属)
23. Corydalis incisa (ムラサキケマン、ケマンソウ科キケマン属)
24. Corydalis edulis (ケマンソウ科キケマン属)
25. Corydalis moupinensis (ケマンソウ科キケマン属)
26. Corydalis ophiocarpa (ケマンソウ科キケマン属)
27. Corydalis racemosa (ホザキキケマン、ケマンソウ科キケマン属)
28. Corydalis pallida (ミヤマキケマン、ケマンソウ科キケマン属)
29. Corydalis foetida (ケマンソウ科キケマン属)
30. Oxytropis glabra (マメ科オヤマノエンドウ属)
31. Stellera chamaejasme (ジンチョウゲ科ステレラ属)
32. Tripterygium wilfordii (ニシキギ科クロヅル属)
33. Crawfurdia maculaticaulis (リンドウ科ツルリンドウ属)
34. Strophanthus divaricatus (キョウチクトウ科ストロファンツス属)
35. Cryptolepis buchananii (ガガイモ科クリプトレピス属)
36. Hyoscyamus niger (ヒヨス、ナス科ヒヨス属)
37. Buddleja officinalis (フジウツギ科フジウツギ属)
38. Jasminum coarctatum (モクセイ科ソケイ属)

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北落師門

Author:北落師門
特徴: 研究者気質(何)、厭世家、人嫌い、典型的ブックワーム。
大量の学問だけで出来ていると思う。詭弁と皮肉で武装している。
目の悪さが半端ない。あと、電話と食事と世間話が天敵。
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