InAequabilitas

Date : 2012年01月26日

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トウアズキ - 相思子

abrus_precatorius
上の写真が何であるかわかる人は恐らく漢方薬に詳しいか毒に詳しいかのどちらかだろう。世界五大猛毒に数えられるリシンをも上回るといわれるアブリンを多量に含有するトウアズキの種子である。
長さを測ってみたところ、基本的に長端は5mm強。重量は0.10gから0.13g。漢方薬店から購入したのでまだまだ大量にある。販売単位が"粒"などというけちなものではなく"斤"(500g)だったために1斤分どっさり溜まっているわけなのだが、個々の重量からすると4500粒ほどある計算になる。優に満員電車数輛分の人間を殺すに足る量だ。それだというのに随分と安かった(笑)。
やはり外観が漆細工のように美しい事からか、毒性よりはむやみとロマンチックなイメージのほうが一人歩きしているような気がする。僕がこれを買ったときも毒性については一切説明がないのに「相思豆:恋人たちの祈りを届けます」などと全然漢方に関係のない説明がしてあったし(…)、別名も中国語では相思豆・愛情豆・美人豆・鴛鴦豆など、随分と雅やかなものである。英語でもRosary peaといって何だか敬虔そうなのだが(トウアズキはロザリオRosaryを作るのによく用いられた)、ロザリオやその他のトウアズキを使った装飾品を作る職人がトウアズキを扱った時にうっかり指を刺してしまったため(種をビーズにするため穴を開ける)、死亡したという例があるのらしい。侮ってはいけない。

トウアズキAbrus precatoriusはトウアズキ属の蔓性多年生落葉草本で、熱帯(北緯16°以南)に自生する。日本では西表島と石垣島に自生しているという。枝はやや木質化し、高さは3-6mにもなる。葉は偶数回の羽状複葉で小葉はそれぞれ全縁で長楕円形をしており、長10-22mm、幅4-6mmで8-15対ある。葉の裏には疎らに毛が生えている。晩夏から初秋にかけて頂生或いは腋生する総状花序に蝶形の花をつける。花は淡紫紅色だが、稀に白のものがある。花後には繊毛の密生した莢(革質、長2-6cm、幅1.2-1.4cm)が密生し、中には上の写真のような種子が5粒ほど入っている。種子は全体的に赤いが、臍の部分が黒く色づく。純白になるものもある。
やや酸性寄り、または中性で水はけの良い湿潤な土壌を好む。熱帯に自生する事から判るように、日射や乾燥に強く、耐暑性もあるが、耐寒性と耐陰性は弱く、4℃以上ないと越冬しない。自生地の年平均気温は18-26℃前後である。播種は10月頃に開裂していない熟した莢から種子を採取して行う。或いは翌年の春まで種子を乾燥保存しておき、それから播種してもよい。種皮が硬いので、蒔く前に傷をつけるなどしておく。

肝腎の毒性分は上に触れたアブリンAbrin(CAS番号1393-62-0)である。アブリンはaからdまで4種類あり、下の図はアブリンAの構造。またアブリンの他にアブルス・アグルチニンAbrus agglutininという蛋白質も含まれており、これはアグルチニンと入っている事からも判るように血液凝集素だ。因みにAbrine(C12H14N2O2)という物質もトウアズキから見つかっているが、これは毒ではない。abrin-a
黄白色の不定形粉末であり、分子量はaからdのどれもが63000から67000の範囲内にある。暗殺・化学兵器に使用されていたこともある有名なリシンと同じ糖蛋白質で、作用する経路もリシンとほとんど同じだ。構造もそれと同じくA鎖とB鎖からなり、B鎖が細胞表面に結合し、エンドサイトーシスを誘導してA鎖を細胞内に送り込み、そしてA鎖が28s rRNAの中枢配列を切断し、蛋白質の合成が停止する。このため細胞死が引き起こされる。毒性発現に蛋白質の合成阻害という比較的面倒な過程を経るため、中毒症状が現れるまでにやや時間を要する。数時間、時には数日の潜伏期間を経たのち、咽頭の灼熱感・食欲不振・流涎・嘔吐・疝痛・激しい下痢に加え、脱水症状、虚脱、感覚鈍麻、ショック、チアノーゼ、乏尿、呼吸困難、循環器不全、運動失調等が起こる。また40℃の高熱や口腔・食道の潰瘍が見られ、末期になると溶血・血尿などの症状が現れ、最終的には呼吸麻痺で死亡する。
死体を解剖してみると、消化管や膀胱の粘膜に斑状出血が確認され、肺水腫、多臓器の鬱血、そして網膜出血が見られる。

アブリンの致死量は0.01mg/kgと推定されており、具体的な数値ではマウスLD50=0.020mg/kg(腹腔内注射)、マウスLD0=0.7μg(静注)などが報告されている(リシンの75倍猛毒という数値はどこから来たんだ…?[1])。馬は種子2オンス(50g強)で死亡するようだが、牛・山羊・犬はそれよりも感受性は低い。人間は、よく咀嚼された種子であれば1粒でも死亡する可能性がある。体重の0.00015%のトウアズキ種子が致死量とされる。
種皮がかなり硬いものだから、種子をただ噛まずに飲み込んだだけなら大事に至ることは少ないが、それでも直ちに医師の診察を受けるべきである。また、アブリンは蛋白質であるため、加熱されると不活性化される(次亜塩素酸塩でも不活性化することができる)。そのため漢方などではまず種子を煮てから治療に用いている。しかし60℃の環境下では30分間毒性が保たれ、80℃なら30分以内にほとんどが無毒化する。葉や根、枝などにアブリンは含まれず、むしろ甘みがあるので天然甘味料とされる。これはグリチルリチンという、甘草に含まれるのと同じ成分のためである。

ところで何で上の写真に7粒しか写っていないかというとこれが1.5mLのマイクロチューブにちょうど収まる量で携行に便利だから(殴)。他の植物を致死量溜めるとなるとどうにも嵩張ってしまっていけない。ほら、もしもの時に一息に口に放り込めば…



[1]: リシンの致死量―2.7-5μg/kg(マウス、吸入); 22μg/kg(ヒト、注射或いは吸入、概算); 20-30mg/kg(ヒト、経口、推定)

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北落師門

Author:北落師門
特徴: 研究者気質(何)、厭世家、人嫌い、典型的ブックワーム。
大量の学問だけで出来ていると思う。詭弁と皮肉で武装している。
目の悪さが半端ない。あと、電話と食事と世間話が天敵。
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