InAequabilitas

Date : 2009年07月25日

CURRENT MOON

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カフカ寓話―皇帝の使者

伝わるところによると皇帝はきみに―一介の市民、哀れな臣民、皇帝の光輝のなかではすべもなく逃れていくシミのような影、そんなきみのところに死の床から一人の使者をつかわした。使者をベッドのそばにひざまずかせ、その耳に伝言をささやいた。それでも気がかりだったのだろう。あらためてわが耳に復唱させ、聞きとったのちコックリとうなずいた。そして居並ぶすべての面々の前で―壁はことごとく取り払われ、たかだかとのびてひろがる回廊をうめつくして帝国のお歴々が死を見守っている―その前で使者を出立させた。
使者は走り出た。頑健きわまる、疲れを知らぬ男である。たくましい腕を打ち振り、大いなる群れのなかに道をひらいていく。邪魔だてする者がいると胸を指した。そこには皇帝のしるしである太陽の紋章が輝いていた。身も軽々と使者は進んでいく。群衆はおびただしく、その住居は果てしない。広い野に出れば飛ぶがごとくで、きみはまもなく、きみの戸口をたたく高貴な音を聞くはずである。
だが、そうはならない。使者はなんと空しくもがいていることだろう。王宮内奥の部屋でさえ、まだ抜けられない。決して抜け出ることはないだろう。もしかりに抜け出たとしても、それが何になるか。果てしのない階段を走り下らなくてはならない。たとえ下りおおせたとしても、それが何になるか。幾多の中庭を横切らなくてはならない。中庭の先には第二の王宮がとり巻いている。ふたたび階段があり、中庭がひろがる。それをすぎると、さらにまた王宮がある。このようにして何千年かが過ぎていく。かりに彼が最後の城門から走り出たとしても―そんなことは決して、決してないであろうが―前方には大いなる帝都がひろがっている。世界の中心にして大いなる塵芥の都である。これを抜け出ることは決してない。しかもとっくに死者となった者の使いなのだ。
しかし、きみは窓辺にすわり、夕べが来ると、使者の到来を夢見ている。

追記は原文
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Irony, Satire and Truth

Biography

北落師門

Author:北落師門
特徴: 研究者気質(何)、厭世家、人嫌い、典型的ブックワーム。
大量の学問だけで出来ていると思う。詭弁と皮肉で武装している。
目の悪さが半端ない。あと、電話と食事と世間話が天敵。
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