InAequabilitas

Category : 零度のエクリチュール

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片道切符

離人感。この手に触れるものは確かにそこにあるのだろうか?響く音楽は幻聴のようだ。僕はいったい何をしているのだろう。目覚めなければ、目覚めなければ。
幾ら自らは寛解したのだと声を大にして叫ぼうとも、錠剤なしの僕は以前と変わらぬしがない自殺志願者に過ぎない。いや、以前と変わらぬというのは間違いだ。僕は考えることをほとんどしなくなった。薬のせいか、馬鹿なのか。どうして死にたいのかを突き詰めることはない。いま志向する死は、理由の無い衝動的な死。ぼんやりとした慢性的な希死念慮を何かが一押しするだけで、いとも簡単に死の淵へと転がっていく。なんと命は軽いのだろう。浮薄な思考によって、気まぐれに死刑を言い渡される。
僕はどこへ行く?生き続けるのか?生きるための錠剤を、死への片道切符にしてしまってもいいのだ。けれども僕は死なないだろう。怠惰だから、卑怯だから、愚鈍だから。それでもいつか僕は自殺を遂げると、そんな気だけがしている。
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5分間

青く浮き出た腕の静脈を指でなぞる。ガラスの中で砂が滑り落ちていく。激しい頭痛。窓の外で野良猫が喚く。喉元で拍動するような心臓の音。「無価値な屑である僕は生きるに値しない」。自身を罰することで僕は許しを乞うているのか。けれども誰に? もう砂は残り少ない。時間がない。剃刀を腕に当てる。当惑したような傷が口を開く。白く柔らかい真皮の向こうに、濃い青色が透けて見えた。それを目がけてもう一度剃刀を食い込ませる。更にもう一度。べっとりと剃刀の刃が血に塗れる。吐き気。耳鳴り。眩暈。

零ベクトル

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未視感・他者性・人工意識

僕の知らぬ間に夜は更け続けて、いつしか黎明が訪れていたのらしい。暗いはずだと思い込んでいた窓にふと目をやって、空が白んでいることに驚いた。今は秋、5時半の空は明るいとは言い難く、かといって暗いとも形容すべきでない。薄汚れたような水色と何とも言えない奇妙な明るさのもとで、鳥か虫の鳴き声が車の走り去る音と共に響いている。遠くを見ると、朝霧の向こうに高層ビルが霞んで見えた。それはまるで偽物のようだった。
見慣れぬ街に迷い込んだような不安感。時折、何でもないような情景のなかに突如として小さな差異を発見し、見知らぬ世界を眼前に突き付けられたようで戸惑うことが僕にはある。それは僕ではない誰かの世界だ。他人と過ごす時ではなく、そうやって不意に日常の中の違和を垣間見る時―大抵は一人でいる時—僕は最も"他者"の存在を感じる。
概念としての他者は僕を困惑させ、思考を揺るがし、僕の内にある凪いだ水面を叩く。どうか放っておいてくれ! 彼らも僕の世界の限界のうちにしか存在し得ないのだ、それなのに何故思いもよらぬことを起こしてみせるのだろう? 僕はますます困惑する。これじゃあまるで、僕の世界はすべて嫌味なプログラマが作成したシミュレーションのようじゃないか…
ああ、けれどもそれなら僕は0と1によって記述されるデータでしかないのだ。感情も意志も、そうあると思い込むようプログラムされているだけで、実際そんなものはありはしない。他者も存在しない。僕は意識という情報の束であって、正確にプログラムに沿って動いていく。何と素晴らしいことだろう!

駄文許すまじ―文体考

家系の影響だと思う。本を読んでいると、文章の内容よりもまず文体が気になって仕方なくなるのだ。悲しいことに、小学生のときからそうだった。文字が読めるようになったくらいの頃から、文学科卒の両親に文章について叩き込まれ続けたせいに違いない。因み彼らは文学科の他にそれぞれデザイン学科と写真学科を出てもいる。お陰様でCIデザインと写真にもやかましくなってしまった。
タイトルを「悪文」でなくわざわざ「駄文」としたのにも理由があって、悪文は何とか耐えられるが駄文は耐え難いのである。ここで悪文とは回りくどかったり説明がヘタクソで解りづらい文章のこと。そして駄文はただただ文の書き方がヘタクソであるもの。解りづらいなあ。(笑)
今まで誇張ではなく数え切れないほどの本を読んできたが、幸運にも読み進めるのが苦痛なほどの駄文には滅多にお目にかかったことがない。何故か今日は思い立って、印象に残っている駄文を羅列してみることにした。

・山田悠介
大昔、厨房の頃だと思うが、クラスメートが「これ好きそうだよね」といって貸してきた本が『リアル鬼ごっこ』であった。もはや話はほとんど印象に残っていない。こんなヘタクソな文章を出版社はよくも本にする気になれたなあという呆れだけは未だによく覚えている。小学校で小説を書くのが流行ったことがあったが、あれで僕が添削(?)してやっていたクラスのある男子が書いた文章にそっくりだった。つまり小学生レベル。真面目になるべきところで口語を用い、"…"をやたらと多用し、且つカッコイイ文章を書けたと得意満面になっていることが容易に想像される文面である。あの文体で延々と読まされていくのは拷問の域だ。

・ナルニア国物語のどれか
これは消防時代の読書録。親が買ってきた岩波少年文庫版のナルニア国物語シリーズのうち一冊が(冒険ファンタジー系は好きではなかったのに!)、確か"神"という単語が出る度に「神のみぞ知る」だか「神は偉大だ」だか何だったかは忘れたが、そういった一文をいちいち括弧書きで付け加えていた。予想外のしつこさに数十ページで見事挫折。小学生を駄文で挫折させるとはある意味で天才的ではないか。

・法医学現場の真相
我が家にある唯一の祥伝社新書で、内容が面白かったので読了はしたが、同じ語尾が続くと気持ち悪くなる標準見本のようだった。とにかく「〜のです」が多い。この本ではなくどこか別の所で読んだとある文章でも「〜のである」が無闇と多用されており、最終段落では一文を除いて全てが「のである。」で終わっていた。この語尾、人気なんだろうか。「〜だ」や「〜である」で置き換えても全く意味も雰囲気も損なわれない部分はそれらで置き換えてしまえばいいというのに…と思ったら、「〜である」もうっかりすると多用しがちな語尾だということを思い出す。

・太宰治
こちらは読点を多用しすぎるせいで、読んでいると息が切れそうになる(別に音読しているわけではないが)。文節ごとに読点を入れているようにさえ見える。僕は真面目に文章を書くときには句読点ひとつひとつにさえ心を裂いているもので、句読点の位置や数にもやたらとうるさい。これは趣味の問題と言われればそれまで。

・悲しみよ こんにちは (朝吹登水子訳)
超有名なサガンの処女作。僕が読んでおこうと思ったのも、有名すぎて古典になりそうだというそれだけの理由だ。それでブックオフに探しに行ったら、運良く100円で手に入った。ところが訳がひどい。今まで見た中で最もひどいレベルに入る教科書訳である。"教科書訳"は解ってもらえる気がするのだけれど、一般的な英語の教科書に付されている直球の直訳のことだ。
以下に朝吹によるひどい直訳を挙げてみる。

「あなたはいま流行の考えを持っているのね。でも価値のない...」
「私はエルザの喜びを覚えている」
「私はこの期間について急ぎ足で通り過ぎる。なぜなら、探求する結果、自分自身を圧しつぶしてしまう思い出の中にふたたび落込んでしまうことを怖れるからだ」

今適当にぱらぱらと本を捲って見つけたものである。こんなのが一冊分続くのだ。耐えられないったらありゃしない。そんなもので、読了したかしていないかも忘れたが、とりあえずこの新潮文庫版は僕が13, 4の頃からずっと本棚に放っておかれていた。
昨日行ったブックオフの100円コーナーで、河野万里子による新訳版を見つけた。まだ捲ってみた程度だが、随分訳はましになっているように思う。名訳とはさすがに言えないものの、普通レベルにはなっている。例えば上に挙げた三例はこのように改善されている。

「今ふうの考え方ね。でもくだらない」
「エルザが喜んだのを思い出す」
「この時期のことは、急いで通りすぎよう。あまり考えると、また思い出のなかに落ちていき、打ちのめされそうで怖い」

上の旧訳と並べると何だか名訳に思えてきてしまう(笑)。

まとめてみると、"駄文"は「文章の流れをぶち壊す一文」「原文の雰囲気を無視した翻訳」「語尾や句読点など技巧的な問題」に大別できるようだ。
修辞技法については好みの問題になるかもしれない。たとえば史的現在(過去形を使うべき所に現在形を使う)は特に好き嫌いが分かれるのではないかと思う。史的現在を多用する人にはいしいしんじや池内紀がいる。僕はこれが凄く好きなのだが、時制の不統一が耐えられない人も少なくないだろう。しかしそれは誰が間違っているわけでも正しいわけでもない。ただそういう修辞技法があるだけの話だ。

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Irony, Satire and Truth

Biography

北落師門

Author:北落師門
特徴: 研究者気質(何)、厭世家、人嫌い、典型的ブックワーム。
大量の学問だけで出来ていると思う。詭弁と皮肉で武装している。
目の悪さが半端ない。あと、電話と食事と世間話が天敵。
Detail/本棚

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